「本当に、もう大丈夫なのか?」
「ああ。ほら診てくれ。どこに異常がある?」
制服姿の肩に通学鞄を掛けた遊作が、玄関先で両手を広げている。
診てくれ、と言われた通り、ソルティスの機能で遊作を上から下まで診る。
体温は普段通り低い。しかし脈拍や呼吸音、微かに感じられる心音も正常そのもの。───ヒート時のそれとは、比べるべくもない。
「うん、いつも通りだ。異常はないぜ」
「そうだろう」と遊作は肩に掛けた鞄をいつものスタイルで持ち直す。
「そういう訳だ。心配するな」
うん、と頷く。
だけど、ついさっきまで───日を跨いでから暫くは、ヒートで性欲に喘いでいた遊作だ。
今はこんなに凛々しくて涼やかでかっこいい。でも、さっきまでお前は、種を求めて子猫のように甘い声で腰をくねらせていた。そんな遊作を外に出したくない。せめて今日一日は様子見として、俺たちの家に閉じ込めておきたいのだが、遊作がいうには、社会がそれを許さないらしい。
「あまり休むと、ヒートを起こしていたのかと揶揄われる」と遊作は当たり前のように言った。
うるせえよ、もう。風邪だろうがヒートだろうが、不調で休むことの何が悪いんだよ。人間社会は分からねえ。
そう思ったが、口には出さずに「そうか。でも無理するなよ」とだけ告げた。
遊作は、ああ、と少しだけ目を細めて笑い、玄関の扉を開ける。
───ああ、束の間の蜜月が終わった。「夕飯はオムライスだから」とせめて彼が早く帰ってくれるように願いを込めて伝えると、想いが伝わったかのように「ああ、早く帰る」と遊作は笑って扉を潜った。
嬉しくなって手を振ると、遊作は一振りだけ返してパタンと玄関の扉を閉めた。
遊作はヒートを越えて、また有象無象に隠れながらの生活を始めた。
俺は空虚に天井を見上げて、どうか、遊作がうまく生きていけるようにと願いを込めて瞳を閉じた。
───あと、まだ見ぬ遊作の運命のαが死にますように。
遊作のヒートが終わって、彼が玄関の扉から外に出る度によぎる願い事を、今回も弛まず祈るのだった。
オメガバースパロのAi遊 - 6/6
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