ヒートの最中、遊作はよくキスをする。
俺は遊作が望まない限り、手は出さない。基本的に膝枕をして、頭や背を撫でるだけだ。
だが時折、遊作自らが俺の頭に手を伸ばし、引き寄せて俺の唇に喰らいつく。
最初はちゅ、ちゅ、と音を立てて唇を合わせるだけだが、次第に唇全体を食むようにしたあと、舌で何度も舐め上げてくる。
ああ、と思い至って、薄く口を開ける。狭い場所に入りたがる猫のように、遊作は舌を俺の口内に差し込んできた。そして、俺の人間の口内を模しただけで、なんの意味もない舌にぬるぬると己の舌を絡ませては、はあ、はあ、ああ、と嬉しそうな吐息を漏らす。
普段───遊作がヒート状態でない時は、こんな事は一切しない。
別に必要無いからだ。俺はキスに対して何の思い入れも意味も持っていないし、遊作もそうであるからだ。そんな事をしなくても、俺たちは想い合っている。そういう自負がある。
だが、ヒートの最中、遊作はよくキスをする。
もしかしたら、いつも望んでいたのかもしれない。ヒトは欲求不満になると、唇に刺激を求めるという。乳を吸って育ったからか、人間は愛や渇望を満たそうとする時、唇に刺激を求めるらしい。真偽は定かではないが。まあ、興味が無いからどちらでも良い。
そして、その気持ちは分からない。分からないが───キスをすると嬉しい気持ちは分かる。
普段、挨拶でも愛情の表現としてもキスなどしない遊作が、俺にキスを求める。
すなわち、俺は遊作にとって「キスをしたい、しても良い相手」という意味で特別なのである。
───ああ、だから人間は性欲で人を求めるのかもしれない。己の欲に愛でもって受け入れてくれる相手を、赤子が母の乳房から受ける栄養を求めるように、渇望するのかもしれない。それくらい、相手にとって自分が特別であると思いたいが為に。
まずいな。その気持ちは痛いくらい理解出来る。
今まさにキスをせがむ遊作に、「ああ。今のこいつは、俺がいなければ生きていけないのだ」と言う、保護欲という名の支配欲に溺れそうだ。
人間は赤子の立場に立ちたいのだろうが、俺は違う。母の立場だ。俺は遊作の欲を愛でもって返してみせるという、そんな俺は遊作の特別であるという、優越感だ。
ヒートの最中、遊作はよくキスをする。
もしかしたら、キス出来るのであれば俺でなくても構わないと思っているかもしれない。それくらい、肉体に翻弄されているのかもしれない、という考えはすぐに消して、俺は遊作のキスを受け入れる。
オメガバースパロのAi遊 - 4/6
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