オメガバースパロのAi遊 - 3/6

 この俺が着いていながら、遊作のΩのフェロモンに感化されたらしいαを彼に近づけてしまった。
 確かにそろそろヒートが発生する時期だ。だが、定期的に抑制薬は服用させている。しかしそれがちょうど切れた後、遊作の心身にかかる影響からか、データの中央値よりずっと早くヒートが始まってしまったらしい。
 遊作のヒートが始まる直前の恒例行事。巣篭もりの為の買い出しの最中のヒートである。
最悪。
 最悪である。Ωは劣等種とされる為、その存在が明かされたらマジョリティであるβ及び、上級国民扱いのαに陵辱されるのが関の山である。理解できないけど。俺はそれに一切の合理性を見出せないけど、俺を作った人間さまの社会はそうであるらしい。
 バカがよ。遊作以外全員くたばれよ。
 人間が言うところの甘い匂いを出しているらしい遊作に、誘われるように人間が集まっている。
 身体を丸めるようにしゃがみ込む遊作を見下ろし、口では「大丈夫?」「気分悪い? どこかで休める所探そうか?」「もう大丈夫、俺に任せて」と言いながら、鼻息は荒く、遊作を見つめる目線は異質で気色が悪いと思えるものだ。
 ソルティスの声帯機能をいじる。本来ならば、無音の状態でストレスなく届くくらいの声量を、まるで近くで掘削作業が行われているかの如く大きな音量に設定を変える。
「ご主人様!! ああ、お待たせしました、申し訳ございません!! おや、貴方達はどなたですか? 存じ上げません! ご主人様が困っています!! ワタクシに設定されたシステムに従い直ちに通報──」
 まで言うと、男たちは舌打ちをして去っていった。
 マジでなんなんだよ、人間て。遊作以外ロクでもねえ。いや、草彅とか尊とか財前兄弟とか島とか、まあリボルバー先生とかその周りは普通の範疇と思ってやるけど。
 などと思考しながら、ぎっしりと袋に詰まった食材たちを揺らして遊作に近づき、はくはくと息を切らしながら身を守るようにしゃがみ込んでいる遊作を抱きしめる。
「大丈夫、遊作。俺がいるからな。もう大丈夫。早く帰ろうな、俺たちの家に」
 遊作の肩を抱いて立ち上がらせる。遊作はくらくらと足元が覚束ない。
 ああ、ヒートだ。くそが。ここから家に帰るまで、数多のβαが遊作に反応するだろう。本能に負けて、強硬手段を取ってくる可能性もある。
 させるか。俺は遊作の運命の相手だ。
 これから、ヒートが治るまで遊作は俺だけの遊作だ。誰も近づけてなんかやらない。
 ───このままずっと家に閉じ込めて、誰とも関わらせずに、遊作が継いできた遺伝子を終わらせてやろうか。
 腕の中の遊作の体温も心拍数も、呼吸すら上がっていく。それに合わせて俺の思考も加速していく。
 良くない。とにかく早く家に帰らなければ。
 ソルティスから無人タクシーに連絡をして、店の前に着ける。先に遊作を乗せて、俺もタクシーに乗り込む。ドアが閉まれば、あとはずっと二人きりだ。
 タクシーが走り出して周りの喧騒が流れていくのを見て、その実感が強まってくる。
 遊作が苦しんでいるというのに、いつもこの瞬間、俺は少し喜んでいる。

 俺も大概、最悪である。

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