三ヶ月に一度。ちょうど春夏秋冬の巡りを感じる時に、遊作はヒートを起こす。
それはもう凄まじいものだ。俺に性欲なんてないにも関わらず(もしかしたら無いからこそ)、なんだって人間はこんな不便な作りをしているんだと憐憫すら覚える。
いつも理知的。情報を深く繊細に読み込み、冷静に物事に対処出来る遊作───それが、ヒートによって何も出来なくなる。
心配になるほど基礎体温が低い身体は火照り、それの影響で茹ったかのような彼の思考は性に関する事しか考えられなくなる。遊作は、第一の性が雄なので勃起もする。肉体的反応が顕著になるので、フェロモン云々の前に人前に出られなくなる。
そんな可哀想なΩのヒートを前に、運命さえ結べるαはなんと、ただ発情するだけだという。
なんなんだよバーカ。それが番のやる事かよ。看病も出来ない番なんている意味ある?
この世のどこかにいるらしい、遊作の運命の番に悪態を吐く。
俺は、こうやって苦しんでいる遊作に寄り添って、色んな事をしてやれる。なんだったら、過去のデータを用いて遊作のヒートのタイミングを日付けだけではなく、時間単位で把握してそれとなく薬を服用するよう、助言も出来る。
それでも、やはり束の間遊作は苦しむ。薬が効くまでの時間に誤差があるからだ。
その間、俺は遊作に付きっきりで世話をする。食事も、部屋の掃除も洗濯も。これに関しては遊作はあまり良い顔をしないが、学校に提出する課題も、なんでもやってあげられる。
苦しむ遊作の頭を膝に乗せて、よしよしと髪を撫でて慰める。その間、遊作がなにをしていても、俺は釣られて発情する事はない。遊作が望むなら道具を使い、彼の身体を穿って慰めるが、ヒートが終わるまで絶頂の果てが無い事を知ってから、要求されることは無くなった。
それでも、遊作が望むことはなんでもしてやりたい───
「なあ、遊作。辛いよな。俺に出来ることない?」
身悶えるばかりの遊作の髪を撫でながら言うと、遊作は発情に茹った頭で考えたらしい、一番のお願いを口にした。
「……もう……っ、こんな風に……、ひぅ……っ、苦しみたくないし……、苦しませたくない……っ」
こんな風になりながら、尚他人の事を考える遊作。
もしかしたら、お前はこうやって季節が巡る度に苦しむかもしれない。だがそんな苦しみから、絶頂という救いをもたらすのも、他のαやβが惑わされるようなフェロモンが出るのを止められるのも、未だ見ぬ遊作の運命のαにしか出来ないことだ。
なんなんだよ、バカがよ。ふざけんなよ。
遊作の髪を撫でながら、「身体捨てたら楽になれるぜ」と囁いても、遊作は苦しげながらも高く喘ぎながら、首を横に振った。