この世には、男と女と言う性の他に、α、β、Ωと言う第二の性があるらしい。
昨今、ジェンダーのあれそれやら、性自認やらでセクシャルとはグラデーションであると言う認識もあるが、あくまで肉体の話である。男・女と言うよりは、雄・雌。その他に、三種類に分類される性があるという。
遊作は肉体は雄、第二の性においてはΩに分類される。
βにとっては実質、性は雄・雌のみだ。具体的に言えば受精させる側か、受精される側かは第一の性によって決定される。この世の九割の人間がそういう作りの身体をしている。
だが遊作はΩだ。第一の性は雄───受精させる側───であるが、第二の性であるΩの体質により、子を孕む事が出来る。
雌がそうであるように、Ωには雄であろうが受胎の能力がある。雄───第二の性においてはαとβ───に対して発情を促すフェロモンを強く出す期間があり、己もその欲求が強くなる時がある。
それは、劣等種の証である───らしい。
劣等種であるΩは、運命の番であるαにうなじを噛まれ、番となることで、αの子を宿し幸せな家庭を持ち、報われる。らしい。
くそくらえである。
俺の可愛くてかっこよくて凛々しい遊作が? Ωだからと言って? 劣等種であるとされ? 唯一の幸せは、運命のαと番って子を成す事だと言いやがる?
人間様の言ってることは分かんねえぜ。俺はAIだからよ。
───AIだから、人間じゃないから、哺乳類ですらないから、俺は遊作の運命の番にはなれない。こんなに、こんなに、絶対世界で一番俺が遊作を愛しているのに。
遊作はαがどうだ、フェロモンがどうだ、匂いがどうだで翻弄されて、今まで俺と過ごして来た思い出や信頼をよそに、「己のDNAをこの世に残せる」と言う潜在的欲求の為に発情して、それを成せる相手を運命の番と呼んで、俺を捨てるのか。
意味わからん。DNAがなんだと言うのか。ネットの世界に来れば、肉体の消滅など無い。自分ではない人間に己のDNAを継がせて、この世に楔を打つと言うような周りくどい存命などしなくていい。
今、こうやって、俺の目の前で薬が効くまでの束の間、望んでもいない発情に身をよじる必要も無い。
「遊作。遊作の運命の相手は俺だから。その堅苦しい肉体から、俺が遊作を救ってやるからな」
番の証であるらしい、Ωである遊作の頸にソルティスのボディで噛み付く。
遊作は「ひっ」と息を詰め、苦しげに「やめろ」と喘いだだけで、定期的に起こるヒートは、一向に止まる気配を見せなかった。